富士山(ふじやま)
 〜この地方の富士山信仰の深さを物語る〜標高182m〜
 埼玉県比企郡小川町にある、日本最高峰と同じ名前の山。もっとも標高は182mという低さ、また山容も私が見る限り、特に富士山に似ているとも思えないし、何故この山が「富士」の名を頂戴しているかと思ったら、その謎は現地に訪れてみて難なく解けた。つまり、頂上に「冨士仙元大菩薩」と彫られた石碑が建てられており、ここもまた関東地方に多い富士山信仰の地であることが知れたからだ。同じ埼玉県の深谷市にある「仙元山」の項にも記したが、柏書房刊『日本の神様読み解き事典』(川口謙二編著)によれば、富士講においては富士の神「仙元大日」を創造神として祀るとあり、「仙元」とは「せんげん」、すなわち「富士浅間神社」の「浅間」を意味する。要するに、山名・頂上に設置されている石碑ともに、この地方の富士山信仰の深さを示す、一つの典型的な事例ということがいえよう。
 この山に訪れるには、関越自動車道「花園IC」から国道140号線を西に向かう。「玉淀大橋北」の交差点を左折、国道254号線に入ってしばらくはそのまま道なりに進んでいけば、10kmほども走ったあたりで、右前方に頂上にアンテナのある山が見えてくるので、後はそこを目指して進めばよい。「みどりが丘」に入ったら右折、山麓に最近開発されたらしい団地の間を抜けて高度を上げると、じきに道は配水場の入口に達して終わる。その脇の木の枝に、頂上への登り道を示した手書きの小さい標識があり、上に向けて細い踏み跡が続いているので、狭い道脇に邪魔にならないよう駐車し、以後は徒歩で頂上へ。踏み跡は最初のうち急傾斜で、足元の落葉が滑って登りにくいが、そんな道はさほど長くなく、じきに頂上に通じる稜線上に出ると、もう目と鼻の先に下から見えたアンテナ施設が見える。そこに突き当り、右に回り込めば、もうそこが頂上である。駐車場所から頂上までは10分ほどみておけばいい。
 アンテナ施設の金網の手前には三角点標石が埋設されており、その右隣には上述の通り「冨士仙元大菩薩」と彫られた石碑が建てられている。碑面を見ると、昭和55年と比較的新しい年代に建てられたものだが、その石碑の背後の金網には、二つに割れた古い石碑が立てかけられており、碑面を見ると同じく「冨士仙元大菩薩」と彫られているので、昭和55年の石碑は、おそらく背後の古い石碑が破損したことにより、新しく建て替えられものであろう。
 なお、周囲は樹林に囲まれて展望は得られず、またその場に建つアンテナ施設に頂上の大半が占領されていて、来訪者が「山」として足を踏み入れることができる範囲も大分狭いという状況ゆえ、さすがにここには大して訪れる人もあるまいと思いきや、筆者の訪問時には、登頂後しばらくして5〜6人の親子連れが登ってきたので驚いた。このような地味な山でも、筆者の住む長野よりはずっと開けた「都会」の人々にとっては、やはり貴重な「憩いの地」であるようだ。

 ← 「富士仙元大菩薩」の碑(埼玉県小川町の富士山頂上にて)

【緯度】360353 【経度】1391548