荒神山(こうじんやま/荒神山陣場址)
 〜公園化した山だが頂上付近は意外な静けさ〜標高769m〜
 辰野町にある穏やかな里山。山上の溜池「たつの海」の周辺一帯は「荒神山公園」として開発され、美術館やホテルが建ち並んでおり、実際「山」というより「公園」といった方が相応しいような状況だが、それでも最高点付近にある「荒神社」の一角だけは辰野町保存樹林の社叢の中で、周囲の公園とは一線を画して比較的静かな雰囲気を保っている。
 また、信州の多くの里山がそうであるように、この山もまた中世戦国の世には、陣場もしくは砦として利用されたといわれる。ただ、それはあくまで一時的なものに過ぎなかったらしく、長野県教育委員会編『長野県の中世城館跡 分布調査報告書』によれば、「荒神山」の名そのままで掲載されており、「公園以前においても遺構なし」「武田氏侵入の際、臨時的に砦として使用されたか。」とある。また『長野県上伊那誌 歴史篇』には「荒神山(陣場)」として「天文の頃、草間備前これに居る。後、武田の陣場となる、北に陣場があったが今は住宅工事のため山容が変化した。」とある。ちなみに同書によれば、天文13年(1544年)11月、甲斐の武田信玄が有賀峠を越えて福与城の藤沢頼親を攻めた際に荒神山まで進出したとのことゆえ、武田氏の陣場として活用されたのは、その時以降のことなのであろう。
 ともあれ、今や公園化している山なので、ただ頂上(最高点)に訪れるだけなら、「荒神社」の境内から裏手の高みに上がるだけで足りるので、大して時間も要さないが、それでは味気ないので、どうせなら溜池「たつの海」脇の駐車場に車を置いた上、まずは溜池の周辺をぐるりと散策して、次いで付近にある美術館や「世界昆虫館」を見学し、最後に「荒神社」の境内から頂上に挨拶して駐車場所に戻るのがよいだろう。このコースなら、まず駐車場所近くで辰野町有形文化財の「赤羽焼」窯の遺構(注:中央自動車道の建設に伴い、昭和48年に現地に移築されたもの)が見られるし、「たつの海」ではコブハクチョウが長閑に憩っている姿に出逢えるとともに、春先なら土手に辰野町の町花フクジュソウの可憐な開花が見られる。さらに「世界昆虫館」では、冬期間でも元気なカブトムシやクワガタムシの姿にしばし童心に返ることができるし、最後に「荒神社」境内では、鬱蒼とした社叢の中で思索に耽ることができる… といった具合で、結構変化ある散策の一時を過ごすことが可能なので、家族連れでの訪問などには大いに適した地といえよう。もっとも最高点の頂上自体は標識もなく、周囲を樹林に囲まれ展望もない地味な場所で、筆者訪問時にも手製の小さい山名表示板が一枚、針金で樹枝に掛けられていたのみであった。

 ← 溜池「たつの海」と荒神山(池の向こう側が頂上)

【緯度】355755 【経度】1375928