物見や城(ものみやじょう/物見や城址)
 〜山名と城址名が同名の珍しい峰〜標高1,122m〜
 伊那市西春近にある、戦国時代の山城址(物見や城址)の山。単郭の小城ながら、その名の通り、往時は物見や狼煙台に使用され、重要な役割を果たしたとされる。実際、中央アルプスから伊那谷に張り出した尾根の末端に盛り上がる峰という地理的条件からして、頂上からは当然のごとく南北の伊那谷が手に取るごとくに見渡せることから、物見の砦としては絶好の場所であったろう。
 また、この山、山名と城址名とが同名という、珍しい山でもある(注:三省堂『日本山名事典』にもその名で掲載されている)。ただ、『長野県上伊那誌 歴史篇』等によれば、この地方には「物見や城」という城址が、本項で紹介する西春近のそれ以外にも、伊那市富県や駒ヶ根にもあるようで、少々紛らわしいので注意されたい。(注:それゆえ筆者としては紹介の便宜上、他に何か別の山名がないものかと『長野縣町村誌 南信篇』の「西春近村」の項などを参照して調べてみたが、特に記すべき結果は得られなかった。)
 この山への登り口として、一番判りやすいのは「休平キャンプ場」からのルートだろう。伊那市の西、中央アルプスの東麓をぬって走る広域農道を行くと、諏訪形集落のやや北に同キャンプ場への標識があるが、あまり大きく目立つ標識でもないので、見落とさないよう注意。また、キャンプ場に続く車道は細く、上部では多少危険な箇所もあるので、自信のない向きには適当な所に駐車して歩いていった方がよいかも知れない。ちなみに筆者が訪れた際には、途中で災害通行止めになっており、キャンプ場まで15分ほど余計に歩くハメになった。キャンプ場からは林内に延びる広い道をたどり、さらに尾根に取り付いて上を目指す。しばしの急登を乗り越えると、そのうち道は平坦となり、それとともに右手の樹間に仙丈ケ岳など南アルプスの豪快な連嶺が目につくようになる。頂上へはそれからほんの一投足。「休平キャンプ場」登り口から頂上までの所要時間は1時間もかからないだろう。片隅に史跡説明標と三角点標石がある他、古松が風情をそえる静かな頂上で、前述の通り、いかにも狼煙台らしく南北伊那谷の俯瞰が良好な場所だが、南アルプス方面の眺めは樹木に遮られて案外良くないのが残念。
 なお、この山の山麓の諏訪形には珍しい猪垣(ししがき)の遺構が林中に見られるので、興味のある向きには、時間が許せば山に登ったついでに一見していく価値があろう。

 ← 「物見や城」頂上(かつて狼煙台として使用されたという)

【緯度】354716 【経度】1375457