庚申山(こうしんやま)
 〜庚申信仰に基づく「庚申塔」が頂上に〜標高189m〜
 群馬県藤岡市にある、標高189mという低山ながら「ぐんま百名山」に選定されている好峰。一帯は「庚申山総合公園」となっており、付近には市民体育館などが設置されているなど、近隣市民の格好の健康増進の場・憩いの場となっているようだ。実際、筆者が訪れた際にも、近隣在住で散歩コースとして歩いているらしい人達や、山麓のスポーツクラブか何かのトレーニングで駆け上がってきたらしい青年達など、結構多くの人々で賑わっていたので驚いた。
 そんな山だけに、実際、頂上近くまで車で上がれてしまい、「山」としてはきわめて平凡な山なのだが… いざ頂上に訪れてみると、そこには山名のごとく数基の庚申塔が立ち並んでおり、現代的な「公園」といったイメージとは、また別の面を見せてくれる。
 庚申塔(こうしんとう)は、中国の宗教を起源とする「庚申信仰」により建てられた石碑で、これがあるということは、この山の周辺地域において、庚申信仰に基づく「庚申講」が盛んであったことを示している。この信仰によれば、人間の体内にいる「三尸(さんし)」という虫が、庚申の日の夜に体内から抜けだし、天帝にその人の悪事を報告するため、早死にしてしまうとされ、それを防ぐために、庚申の日の夜には徹夜して宴会などをする習わしがあり、これを「庚申講」とか「庚申待ち」という。庚申の日は、昔の暦で使われていた「十干(じっかん)(甲(きのえ)、乙(きのと)、丙(ひのえ)、丁(ひのと)、戊(つちのえ)、己(つちのと)、庚(かのえ)、辛(かのと)、壬(みずのえ)、癸(みずのと))・十二支(じゅうにし)(子(ね)、丑(うし)、寅(とら)、卯(う)、辰(たつ)、巳(み)、午(うま)、未(ひつじ)、申(さる)、酉(とり)、戌(いぬ)、亥(い))」の中の、「庚(かのえ)」と「申(さる)」の組み合わせに当たる日で、60日ごとに回ってくる。つまり「庚申講」に参加している人達は、約2ヶ月に一度は、必ず徹夜して宴会などをしなければならないことになるわけで、筆者のように酒に弱い(?)者にとっては、聞いただけでウンザリするような話であるが… しかし現在のように多様な娯楽が発達していなかった当時の人々にとっては、信仰に基づく重要な行事であると同時に、ある意味では数少ない貴重な娯楽の機会でもあったのではないか。なお、頂上には「庚申塔建立六十一年祭記念」と刻まれた記念碑も建てられていることにより、少なくともそれ以上の年月にわたって、周辺地域で庚申講が行われてきたことを知ることができるとともに、それに由来する庚申塔があえてこの山の頂上に建てられているという事実により、この山が古くから周辺地域の住民にとって特別な場所であったことをも容易に推測することができる。
 この山に訪れるには、上信越自動車道「藤岡IC」から「西上州やまびこ街道」を南下するのが、もっともわかりやすいだろう。藤岡ICからほんの4kmほども走れば、右前方に小高い丘と「庚申山総合公園」の案内標識を見出せるので、そこで右折し、後は適当な駐車場所まで上がって車を駐め、頂上を往復するといい。頂上には上述した庚申塔等の他、展望台が設置されており、そこからは北に、上州の名峰赤城山方面などが良く望まれる。三角点標石は展望台からほんの少し南に進んだあたりの道脇の笹薮の中にある。

 ← 庚申山頂上(展望台あり)

【緯度】361339 【経度】1390338