飯縄山(いいづなやま/奈良尾)
 〜予想外の眺めと素朴な生活の痕跡〜標高866m〜
 信州新町の山深い集落・奈良尾の付近にある、今は訪れる人も少ない静寂な山。別掲の長野市の最高峰と同名であるのをはじめ、他にも同じ北信に同名の山があり紛らわしいため、見出しには混同を避ける意味で山名の後に所在地名を付して紹介している。(注:当初は他との区別の便宜上、山名の前に所在地名を冠し「奈良尾飯縄山」として紹介していたが、本来の山名でない呼称が流布するのは好ましくないと思われたため、上記のような紹介方法に改めた。)
 この山、よほどの寂峰マニアでなければ、その存在すら知る向きも少ないことだろうが、実は国道19号線の川口橋近辺から犀川左岸側に結構立派な山容を見せている山である。ただ、こうした山の多くがそうであるごとく、この山もまた地形図上では道が明らかでないので、登るにはこの山に最も近い集落である「上奈良尾」あたりから、適当に登り易そうなところを選んで行くしかない。ちなみに筆者は頂上から北側に派生する尾根に取り付いて登ったが、途中からは往時の地元の人々の生活の名残とおぼしき結構明瞭な道形を見出したので、一応それを順路としておきたい。
 登り口までのアプローチは、国道19号線を南下する場合は「日名橋」の手前で右に折れ、「柳久保池」方面への道をたどって「上奈良尾」の集落あたりまで車で入る。そして首尾良く前述の尾根筋を見出したら、道脇の適当なスペースに駐車し、後は尾根筋を忠実に頂上まで登りつめればよい。
 そして… この山が単に平凡な寂峰でないことは、晴天下であれば、登り始めてすぐに判るだろう。樹林の切れ間から進行方向右手に拡がる眺めは… 五龍岳、鹿島槍ケ岳、爺ケ岳など、かの後立山連峰の錚々たる面々! まさかこんな、山また山の折り重なる中の一峰から、それほどの眺めが得られようとは、事前には容易に予想できまい。また、やや薮がちとはいえ、進むにしたがって次第に明瞭になる道形をたどって達した頂上には、「上奈良尾建立」等の銘のある素朴な石祠が2基見出され… 今はほとんど訪れる人もなさそうな山ながら、往時は上奈良尾の人々などの生活に密着した山であったことが知れて興味深い。さらに、それら石祠のすぐ背後の樹間からは、今度は新町方面の俯瞰から四阿山など上信国境の山々まで、これまた予想以上の眺めが眼前に展開… 全くもって、このような知られざる良き山があるので、筆者など寂峰巡りをやめられないのだ。
 もっとも、そんな山の割に登頂に要する労力は少なく、車道から北側の尾根筋経由で頂上までの所要時間は30〜40分程度。

 ← 信州新町奈良尾の飯縄山を望む(旧大岡村の国道19号線沿いより)

【緯度】363312 【経度】1375738