萩野城櫓峯(はぎのじょうやぐらみね/萩野城址)・物見山(ものみやま)
 〜1,000m以上の高所にある貴重な山城址〜標高1,176m(萩野城櫓峯)・1,200m(物見山)〜
 陣場平山の近くにある「萩野城址」のある一角の峰々。陣場平山から南西方に派生する山稜上の一角にあり、一見陣場平山の一部に見えなくもないが、実際に訪れてみると、陣場平山側とは地蔵峠で一応明確に区分されており、また他にあまり類例をみない高所の山城址であることもあり、本項ではあえて個別の山々として扱う。これらの山々、『長野縣町村誌 北信篇』の「七二會村」の項を参照すると、「萩野古城跡」として「郷社の西北、峯の頂上にあり。春日氏の城なり。敵の寄せし時籠りしと見ゆ。」との、きわめてさらりとした記事があるだけだが、萩野城本郭址の現地案内板に、次のような詳細で興味深い記載があるので、次にその全文を転載紹介してみることにする。
 「萩野(之)城跡は長野市七二会知足院の北の山頂(一一八四メートル)にあり、城跡は中条村臥雲院との境にまたがっている。伝承によると城主は飯縄千日太夫の祖伊藤豊前守忠縄だったといわれる。また、七二会・中条一帯は戦国時代まで春日郷といわれ、春日氏が領主だったので、春日氏が築いたともいわれる。この城の西の麓にある臥雲院も春日氏が建てたものである。永禄二年(一五五九)に書かれた『臥雲院縁起』によると、臥雲院の寺領の東境は『
萩野(之)城櫓岑』(やぐらみね)と書かれており、萩野(之)城にヤグラが建てられていたことがわかる。城跡は二つの嶺にわかれており、西嶺の方が広く、本郭(ほんくるわ)と二の郭があり、それをめぐって腰郭が設けられている。東嶺にも郭があり、その南に最も大きな堀切がある。この城は千メートルを越える高地にあり、攻撃のための城ではなく、春日氏の手が加わっているにしろ、農民たちが自衛のために築いた城だと推測される。長野市にある山城のうち、最も高いところにある城であり、規模が大きくしかも戦国時代の史料にも名前の出てくる城として貴重な史跡である。長野市と中条村で協議の上、平成五年六月十日付にて同時に文化財指定をした。平成八年三月三十一日 長野市教育委員会 中条村教育委員会」
 これにより、萩野城址のある峰が、かつては「櫓峯」と呼ばれていたことが判る。それゆえ、本項でもこれを紹介用の山名として採用することにした次第。(注:なお「萩野城址」については、ここの他、同じ北信エリアで地理的に近い信州新町にも同名の山城址があるが、そちらは木曽義仲配下の仁科氏ゆかりの城址であり、山名も「萩野山」と全く異なるため、混同しないよう留意されたい。)
 登り口は陣場平山との鞍部にあたる「地蔵峠」。付近には広い駐車スペースがあるので、そこに車を駐めて歩くのがよい。付近にある「長野市七二会・萩野城跡愛護会」の案内看板に従い、陣場平山方面への道とは逆に、少々舗装された林道を歩くと、ほどなく山道が左に分かれている。少し登り、先の案内看板に「物見山」とある峰の頂上直下を右手から巻いて通過し、さらにしばし山稜を緩く下って、再度登り返すと、本郭址と脇郭址との間の大堀切である鞍部に出る。ここで右に上がると萩野城本郭址の峰(注:標高1,176m)、逆に左に上がれば脇郭址のある東嶺(注:案内看板等によれば標高1,184m)。案内看板等による限りは、後者の方が前者よりも若干標高が高いようだが、国土地理院の2万5千分の一地形図上では該当する等高線が見当たらず、裏付けがとれないため、本項では明るく、かつ展望的にも優れている本郭址の峰の方を当面「頂上」として扱っておくことにする。本郭址の峰からは、特に二の郭の先に中条村の名峰虫倉山方面の眺めが良好。すっきり晴れてさえいれば、さらにその背後に北アルプス方面も望まれるのだろうが、筆者の訪問時には残念ながら梅雨の合間らしく、薄雲が視界を遮っていた。一方、脇郭址の東嶺は前述の通り本郭址ほど開放的な雰囲気ではないものの、長野市街地方面の眺めが一部開けており、かつ本郭址に比して狭く、いかにも「ピーク」というイメージの場所。これら両峰のどちらが良いかは個々人の「山」の好みにもよるだろう。
 以上、地蔵峠の駐車場所から、萩野城の本郭址及び脇郭址までの往復所要時間は、ノンビリ歩いても1時間半程度あればよい。なお、前出の「物見山」は、その名からして、萩野城の一角の砦をなしていた地のようだが、道は頂上を通過していない上、あえて頂上まで登っても「物見」どころか周囲は樹林に囲まれ展望ゼロ。ただ、頂上付近にはかすかに砦址とおぼしき土地整形の痕跡がみられるし、また同山と萩野城址との間の鞍部あたりに結構広い郭の遺構とおぼしき平地がみられたりすることなどから、少なくとも萩野城の地蔵峠側の固めの役割を担う地の利であったことだけは確かであろうと思われるので、気になる向きには薮をこいで登ってみてもいいだろう。直下の登山道から頂上までは5分とはかからない。

 ← 萩野城本郭址(萩野城櫓峯頂上にて)

【緯度】363839 【経度】1380353
(地蔵峠の南西にある1,176m標高点ピークが萩野城櫓峯、物見山はその北北東約500mのコブです。)