山吹山(やまぶきやま/山吹山狼煙台址)
 〜毎年8月の「らっぽしょ」祭りで有名〜標高1,090m〜
 木曽路の宮ノ越の北にある素朴な里山。この山、一般には登山の対象というよりは、毎年8月半ばの「らっぽしょ」祭りで、頂上直下の崖に、京都の大文字みたいな「木」の火文字がともされることで知られている山だが、実は戦国時代の狼煙台(山吹山狼煙台)であったという、また別の一面も有している。確かに、位置的にはちょうど宮ノ越の北の「巴ケ淵」に近い木曽川の狭窄部の抑えとして重要な意義を有していたと思われ、山麓からもよく見える火祭りの山だけに、当然山上から山麓の俯瞰も良好で、物見を兼ねた狼煙台の立地としては、まさにうってつけの地であったろう。
 また、この山の名は、直下の木曽川の「巴ケ淵」と共に、信州の英傑、朝日将軍木曽義仲の愛妾の名にちなんだものともいい… 山容的には尾根の末端みたいな平凡な山ながら、前述の火祭りとか戦国時代の狼煙台の件とも相俟って、少なくとも歴史上ないし民俗上は大変興味深いエリアといえる。もっとも、特にその方面に関心のない向きにも、前述の通り山上からの眺めも結構良いので、「山」としての魅力も十分では?
 この山に登るには、国道19号を木曽路にとり、まずは前述の旧日義村(現:木曽町)にある「巴ケ淵」を探す。目安としては「山吹トンネル」の南出口から500mほど進んで木曽川を渡ったところを、すぐ右手に折れる道に入れば、じき右手に「巴淵」の石碑がある。ここはかつて木曽義仲の愛妾・巴がよく水浴したと伝えられる所で、折角来たなら、近くにある義仲旗挙げの地という「旗挙八幡宮」や、義仲菩提寺の「徳音寺」など、一連の木曽義仲ゆかりの地と共に一見の価値があろう。巴ケ淵からは、そこの木曽川にかかっている橋を対岸に渡り、さらに徳音寺集落の中の細い道を南に500mほど徐行して行くと、そのうち山吹山方面への道標に従い右折、今度は逆に北に向けて少々走り、道が大きく右にカーブする地点で、先に延びているのが山吹山への登山道。登り口付近には特に駐車場はないので、路傍の狭いスペースに地元の人の迷惑にならないよう注意して駐車し、以後は徒歩で道標に導かれつつ頂上を目指す。登山道は毎年「らっぽしょ」祭りで子供たちが登るくらいだから、よく整備されていて歩き易い。ほんの20〜30分ほど、樹林の中の道をジグザグに登ると、その「らっぽしょ」の火文字がともされる崖の上の縁に飛び出て、ここで一気に南の方の眺めが開ける。ことに中山道木曽路の宿場町のひとつである宮ノ越方面の俯瞰がよく、付近には東屋もあるので、休憩場所に最適だろう。頂上はここからさらに10分ほど東に進むと到着する。いかにも戦国時代の狼煙台らしく、物見櫓を模した展望台が設置されている。単郭の小さい城址で、頂上平地の周囲には、消えかけた空堀の痕跡がわずかに認められる。

 ← 木曽川と山吹山(上部の崖になっている箇所に「らっぽしょ」の火がともされる)

【緯度】355407 【経度】1374611