滝山(たきやま)・御鷹山(おたかやま)
 〜滝山連峰白眉の山域の割に目立たず静寂〜標高1,568m(滝山)・1,623m(御鷹山)〜
 中信(松本市)と東信(小県郡青木村)との境界上に大きく横たわる、いわゆる「滝山連峰」の中の峰々。別掲の入山の北にあり、特に滝山は連峰最高峰の入山をも差し置いて連峰名に冠されていることからして、同連峰を代表する峰のひとつであることは確かなのだが、その割には山麓から見ても特に目立つ山容をみせているわけでもなく、意外なまでの静寂を保っている山域だ。
 これらの山々に登るには、小県郡青木村の十観山側から保福寺峠方面に延びる縦走路を利用する。その場合、上田市から国道143号線を松本方向に向かい、「明通トンネル」を抜けてさらに少々走ったところで「河鹿沢」集落方向に折れる道に入り、林道を最上部付近まで上がると、十観山との間の稜線の縁近くに出るので、そのあたりで道を探し、まずは稜線へと上がる。「No.100」の送電線鉄塔への入口から入るのが最も判り易かろうが、付近には目立った駐車スペースもないので、駐車に際しては地元の人に迷惑をかけないよう注意。鉄塔まで巡視路を上がると、その先に稜線上に向けてさらに踏跡が続いている。稜線上にさえ出れば、そこはもう件の滝山連峰縦走路なので、後は右(南)へ忠実にそれをたどって行くだけだ。縦走路は意外にも非常に歩き易い長閑な樹林の中の道で、どうも雰囲気的に、昔から良く踏まれてきている道らしく、実際、いつしか傾斜の度を加えた道を登り切ったところの1,524m標高点峰(注:現地案内板には平成19年11月17日現在「三ツ頭山頂」とある)など連峰中複数の峰の頂上には石祠が見られるなど、今でこそマイナーな山域ながら、往時は地域の人々の生活に密着したエリアだったのだろうと想像される。
 「三ツ頭山頂」の標識のある1,524m標高点峰から、わずかに下って登り返すと、ほどなく3基もの石祠が祀られている1,568m標高点の峰上に出る。「河鹿沢」集落上部の林道脇からここまでの所要時間は徒歩片道1時間半ほど。筆者が訪問した平成19年11月17日時点ではなぜか付近に山名標示板は見当たらず、国土地理院の地形図上も全く山名標示がないが、上田地域広域連合作成の『信州上田地域トレッキングマップ』によれば、この石祠3基のある1,568m標高点峰を「滝山」としている。しかし、『長野縣町村誌 東信篇』中「田澤村」の「三ツ頭山」の項を参照すると、「頂上三峯竝立するを以て名づく」「南は奈良本村の瀧山に接す」とあり、それからすると、この峰、本来はその「三ツ頭山」の中央の峰であるように思われる。(注:地元では現在「三ツ頭山頂」の標識のある1,524m標高点峰と、その南の石祠3基のある1,568m標高点峰、さらにその南の1,566m標高点峰の3つの峰を総称して「三ツ頭」と呼称している模様。) もっとも混乱を避けるため、本項では一応『信州上田地域トレッキングマップ』の表示に従い、当面同峰を「滝山」として扱っておくが、今後状況が変わった場合には随時修正する。
 御鷹山へは、ここからさらにプラス1時間ほど、南へ稜線をたどる。「三ツ頭」の第3ピークに相当する1,566m標高点峰を経由して一旦鞍部に下り、登り返して少し進むと、ほどなく「御鷹山山頂 1,623m」の標識がある峰の頂に達する。確かにそこは「御鷹山」の一部をなす峰と考えて差し支えなさそうだが、厳密に言えばそこは地形図上標高1,610m等高線の峰で、1,623m標高点の頂上は、実はここよりもう一つ先の峰。もっとも標識の峰からは一投足で難なく達する。真の頂上には平成19年11月17日現在、何の標識もなかったが、石祠1基がたたずむ静寂な場所で、明らかに先の標識のある峰より高いので、そこが間違いなく頂上であることは一目瞭然。ただ、周囲は樹木が邪魔をして展望はあまり良くない。なお、ここより南にさらにもう一つ、標高1,622m標高点の峰があるので、晴天で時間に余裕があれば、そちらも是非往復してみたいもの。というのは、そちらの稜線上で1箇所、樹間より北アルプス白馬連峰から後立山連峰あたりを良好に望めるポイントがあるからだ。実際、本コース中で西の北アルプス側の展望がひらけるポイントは、少なくとも筆者が歩いた限りでは、そこしかなかった。
 以上、登り口から御鷹山の南端ピークまで足を延ばして往復するに要する時間は、休憩込みで5時間程度はみておきたい。帰途、御鷹山の山名標識のある1,610m等高線の峰から少し下ったあたりで踏跡がやや錯綜するが、ルートは右寄りに取り、左の「地蔵峠」側に派生して下る稜線上の踏跡に入り込まないよう要注意。
 さて、以上によりお判りの通り、この山域では「三ツ頭山」「滝山」「御鷹山」の名が錯綜している上、紛らわしいピークがいくつもあるので注意が必要だが、改めて整理してみると、大きく分けて「三ツ頭山」に相当すると思われる3ピーク(北より、1,524m標高点峰、1,568m標高点峰、1,566m標高点峰)の領域と、「御鷹山」に相当する3ピーク(北より、1,610m等高線の峰、1,623m標高点峰、1,622m標高点峰)の領域があり、標高はそれぞれ中央のピークが最も高いが、山名標識は平成19年11月17日現在、それぞれ北側のピークに設置されている。そして、「三ツ頭山」の領域の中央ピーク=1,568m標高点峰が『信州上田地域トレッキングマップ』により「滝山」に比定されているが、現地には「滝山」の標識は平成19年11月17日現在、未設置、という状況である。
 しかし、「滝山」が実際にどのピークに相当するかは、なお検討の余地があろう。というのは、上掲した『長野縣町村誌 東信篇』中「田澤村」の「三ツ頭山」の項の記述内容を素直に地形図と照らし合わせて読み解けば、「瀧山」なる山の位置は、「三ツ頭山」の領域の中央ピーク=1,568m標高点峰よりも、むしろ「御鷹山」の領域に相当するのではないかとも思われるからである。
 ただ、1,623m標高点峰は地形図上はあくまで「御鷹山」と明示されており、かつ三省堂『日本山名事典』の「御鷹山」の項によれば、同山は江戸時代に松本藩が鷹狩用のタカを捕らえた山とあって山名の由来もはっきりしていること、また『長野縣町村誌 東信篇』中「奈良本村」の「瀧山」の項を参照すれば、「溪水一條、東面の中腹より發し、本村に至りて田用水に供し、下流字常導寺にて浦野川に入る」とあり、この「溪水一條」とは、同村中の「浦野川」の記述等とも照らし合わせて検討すれば、滝山連峰の山腹から東山麓の奈良本集落へと流下している「滝川」をさすものであると思われ、この川は地形図で見る限り、「御鷹山」からというよりは、むしろ「三ツ頭山」の領域の山腹から発生していることも確かなので、その「滝川」の源頭という意味なら、確かに現在『信州上田地域トレッキングマップ』で「滝山」頂上に比定されている1,568m標高点峰の方が「滝山」と呼ばれるに相応しい気もする。(注:ちなみに『長野縣町村誌 南信篇』中、東筑摩郡「中川村」の「御鷹山」の項には、特に注目すべき記述はない。) これら諸々の件も含めて、後考を俟ちたいと思う。

 ← 「三ツ頭山」の標識のある1,524m標高点峰頂上付近(背景が本項で「滝山」とする1,568m標高点峰)

【緯度】362048 【経度】1380412
(「御鷹山」の北北東約1.2kmに位置する1,568m標高点峰が本項で当面「滝山」とする峰です。)