山行記録帳(2012)
〜Yamazaki's Photo Diary 2012〜


 【山行・自然観察リスト】
 2012年最初の山〜皆神山  国敗れて山河あり〜佐久市前山の城山(前山城址)
 前日に引き続き山城址探訪〜堂城山(堂城山城址)  数年ぶりに訪問〜城山(祢津下ノ城址)
 冬季間ならではの自然観察〜妻女山  太平洋を見渡せる憩いの里山〜衣笠山
 明るい展望の里山〜長峰山  霧の中を散策〜高ボッチ山  蝶の観察2012@〜アサマシジミなど
 絶壁の縁で肝を冷やしつつ〜破風岳  地味だが明るく開放的〜志賀高原・坊主山
 蝶の観察2012A〜ゴマシジミなど  タヌキに遭遇〜天龍川沿い県道にて
 興味津々〜南方系の蝶2種を越年飼育観察へ


 2012年最初の山〜皆神山
 1/1、2012年最初の「山」として、家族全員で初詣を兼ね、長野市松代にある「皆神山」に訪問。
 ここ数年、元日にこの山に訪問するのが、何となく恒例になってしまったが… この山、手軽な山ながら、県宝指定の「熊野出速雄神社」社殿周辺の一種荘厳な雰囲気といい、また晴天に恵まれさえすれば、頂上から望む飯縄山や戸隠連峰の眺望に優れていることといい、私好みの山の雰囲気を兼ね備えていることから、いつ訪れても、相応の充実感を味わえる所である。
 そして今回、最高点の石祠の裏手から望んだ飯縄山や戸隠連峰の姿は、雲ひとつかからず明瞭であり… 私はその景観を眺めつつ、どうかこの一年、かの山々のごとく、身辺のすっきりした年になればいいが… などと、願うとはなしに願った次第であった。







 国敗れて山河あり〜佐久市前山の城山(前山城址)
 最近の私の山に関する関心事は、これまでの山行記録中にも幾度となく記してきた通り、蝶を中心とした自然観察にあるが、無論、そうなる以前から興味を惹かれてきた「山城址」への志向も相変わらずで… 蝶が見られない冬季間は、当然、そちらの方に主に関心がいく。
 で… 1/8、たまたま所用で佐久市に訪れたついでに、今年初の山城址探訪として、同市内の「前山城址」に訪れてみることに。
 この城址のある峰の名称については、例によって国土地理院の地形図上には何らの記載もないが、『長野縣町村誌 東信篇』の「前山村」の「古跡」の項中「伴野城跡」に「村の戌の方
城山の頂上にあり」とあるので明確だ。(注:「伴野城」は現在では「前山城」の別名となっている。) 東麓の案内看板のある所から、しばし雪と落葉で滑り易い斜面を上がると、ほどなく「大神宮」の祠と東屋などがある本郭址に至ったが、東屋のすぐ脇の四等三角点標石のあるあたりから東方を眺めると、佐久平が一望の下であったのはもちろん、その背後には、かの浅間山の優美な姿あり。
 眺望がいいだけに、ここに山城が築かれたことにも至極納得できるのであるが、いざ実際の歴史をひもといてみると… この城、どうも地形的な問題や、山麓からの比高不足等が災いしたのか、甲斐の武田信玄の信濃侵攻以降、数度の落城を繰り返している模様である。そして武田氏滅亡後の天正年間、依田信蕃の攻撃を受けてまたも落城、城主の伴野信守はからくも城から逃れたものの、その子の貞長は数年後に討死するなどにより、ついにこの地方の有力な豪族であった伴野氏は絶えてしまったという。信州には、こんな悲惨な経緯をたどった山城址が実に多く… 私はそのような山城址に訪れる度、いつも「国敗れて山河あり」という言葉を思い出さずにはいられないものである。







 前日に引き続き山城址探訪〜堂城山(堂城山城址)
 1/9、前日に引き続き、冬季間の山城址探訪の一つとして、千曲市にある「堂城山城址」に長男と共に訪問。冠着山(姨捨山)の北に位置し、薬師堂で有名な「明徳寺」(注:ここもまた中世の館址であるという。)の裏手の小峰「堂城山」の上にある、ごく小規模な山城址である。
 この城址に関しては、『長野縣町村誌 北信篇』の「羽尾村」の「古跡」の項中「堂城」を見ると、「村の亥の方堂城山の嶺上にあり。一平地にして東西六間、南北七間あり。東へ二間下りて一段あり、東西十間、南北八間。明治五年土を穿ちて一瓶を出す。又中に瓶あり、唐錢卅錢、唐鏡三面、小石一ツあり。又大刀の折六寸許小太刀の折及び小瓶二つ出たり。」と紹介されているが、往時の事跡や城主等の伝承に関する記述はひとつもない。(注:そのせいなのかどうか、長野県教育委員会編『長野県の中世城館跡 分布調査報告書』には「明徳寺館」の記載はあるが、なぜか堂城址については記載がない。後に発刊された郷土出版社刊『定本 北信濃の城』や『探訪 信州の古城』には、堂城址についての記述はあるものの、こと伝承に関しては『長野縣町村誌』の内容を超える記事はほとんどないというのが実情である。ただ、両書によれば、ここは南北朝時代までさかのぼる古い山城址であるとのこと。確かに、現地の地形や簡略な構築を見る限り、甲越両軍による一連の川中島の合戦の頃には、おそらく軍事上何の役にも立たなかったろう。)
 さて、この山城址への登り口については、現地に訪れてみたが、どうもよく判らず、西麓の送電線鉄塔のあるあたりから上がってみたが、上部では熊笹の薮漕ぎとなり、低山の割には存外衣服を汚すハメになった。また頂上一帯には、確かに『長野縣町村誌』の記述通りの郭の遺構が見られたが、最高点の石祠がなぜか倒壊していたのが残念だった。(注:『定本 北信濃の城』に、倒壊前の情景写真が掲載されている。) とはいえ、山麓には前述の「明徳寺」や、また「瘡守稲荷神社」なる、疾病平癒に御利益があるという神社があるなど、郷土の歴史探訪にはこれで十分興味深いエリアといえよう。







 数年ぶりに訪問〜城山(祢津下ノ城址)
 1/15、日曜日の午後。私は次男と共に、東御市の城山(祢津下ノ城址)に訪れた。
 この山、私にとっては平成17年の5/29に訪れて以来の訪問となる。ただ私としては、本来ならここではなく、どこか未訪の山城址をと思っていたのだが… 例によって、この土・日曜日は何やかやと多忙で、思うように時間が取れず、結局、時間が空いたのは日曜日の午後のみ。まだ陽の短い時季の午後でもあり… ここは無理をせず、あえて以前訪れて様子が判っている山を選択したわけである。
 もっとも、いざ訪れてみると、頂上の本郭址からの眺めは格別で、やはり来てよかったと思った次第。八ヶ岳連峰は残念ながら雲をかぶってしまっていたものの、烏帽子岳、籠ノ登山、美ヶ原、独鈷山、荒倉山、兜岩山、等々の山々が良好に見渡せ… なかなかどうして、結構雄大な気分を味わえた。
 さすが、ちゃんと史跡として整備されている山城址だけのことはある、などと思いつつ… 本郭址の傍らに設置されている方位盤を見ると、盤面にハヤシミドリシジミの写真が刻印されている。ということは、ここのカシワ林にはこの蝶が生息しているのであろうと思い、頂上付近のカシワの枝をちょっと引き寄せて卵を探してみると、存外簡単に見つけることができた。結構生息しているらしい。となると… 次回は是非、成虫の時期に訪れてみたいものだ。







 冬季間ならではの自然観察〜妻女山
 1/21(土)と1/22(日)は、自然観察に特化した「山」を楽しむこととし、そのフィールドとして、慣れ親しんだ妻女山を選択。前週訪れた東御市の城山(祢津下ノ城址)で、たまたまハヤシミドリシジミの卵を発見できたことに触発され、違う種類の蝶の卵も目にしてみたくなったのである。
 ところが… そういう時に限って、どうもコンディションは良くなく、21日は小雨、22日も陽は射したものの、山中には随所にシャーベットのようになった雪… といった具合で、今ひとつ爽快な山歩きというわけにはいかなかったが、それでも所期の狙い通り、違う種類の蝶の卵をいくつか見出せたのは幸いであった。
 もっとも、それらの卵はあまりに小さく… 正直なところ、思い切り接写で撮影した後、自宅に戻って画像を確認して初めて種類を特定できた次第。結果、確認できたのはオオミドリシジミとミズイロオナガシジミの2種類だけだったが… 実際、ここには他にもっと多くの種類が生息しているはずなので、また折を見て、再度観察に訪れてみたいものだ。






 太平洋を見渡せる憩いの里山〜衣笠山
 2/12、たまたま所用で神奈川県横須賀市に訪れたついでに、ごく近くにある「衣笠山」に立ち寄ってみた。
 横須賀といえば、軍港で有名な町で、横須賀港には海上自衛隊の護衛艦などが停泊している姿を間近に見ることができるし、近隣には記念館「三笠」が保存されている「三笠公園」があるなど、まるで「海」一色の町かと思っていたが、案外、海から手が届きそうなほどの場所に、素朴な「山」があるものである。
 この山の一帯は「衣笠山公園」として整備されていて、登り口の駐車場付近には「衣笠神社」が祀られており、そこからわずか登ったところの展望台には「衣笠聖観世音」の小祠が設置されているなど、地元の人々には格好の憩いの場になっているようだが、地元の案内看板によれば、この公園の始まりは、日露戦争の戦没者を霊を慰める記念塔を建立すると共に、桜やツツジを植樹したことに由来し、現在では三浦半島随一の桜の名所になっているそうだ。
 そんな場所だけに、「山」というよりは「公園」のイメージの方が強いのではあるが… それでも最高点の展望台の峰まで行ってみると、やはり「山」らしく、展望台の下には三角点標石がひっそりと設置されていた。







 明るい展望の里山〜長峰山
 5/6、安曇野市(旧明科町)の「長峰山」に訪問。
 この山、車道が頂上直下まで通じており、「山」としては実に安易な場所ながら、西方の展望がきわめてよく開け、眼前に迫る北アルプス連峰の迫力に手軽に接することができるとあって、私としては時々、衝動的に訪れてみたくなる山のうちの一つである。
 この日も、まず第一に、そんな展望を期待して、たまたま付近に訪れたついでに、ちょっと駆け上がってみたのであるが… 肝心の展望の方は、残念ながら雲がかかって今ひとつ。それでも、眼下に拡がる安曇野の瑞々しい情景は、いかにも「春」という感じで、ごく短時間ながら、心なごむ一時を過ごせた次第であった。
 おそらくは今後とも、気が向くままに、この山には幾度となく訪れることになるであろう…






 霧の中を散策〜高ボッチ山
 7/21、松本平の東、鉢伏山の南になだらかに横たわる「高ボッチ山」に訪問。
 時は折しも夏真っ盛り、特に猛暑の今年とあって、ほとほと暑さに堪えかねると、どこでもいいから、とにかく高いところへ駆け上がり、一時なりとも涼みたいという衝動にかられる。「高ボッチ山」は、正にそんな場合において、きわめて手頃な場所であり、私ももうこれまで何度となく訪れているが… この日もまた例によって、長男同伴での蝶の観察のついでに、にわかに思い付き立ち寄ってみることにしたのであった。
 と… 狙い通り、山上は下界とはまるで別世界のような涼しさで、生きた心地を取り戻せた次第であったが、その代わり、周囲は霧に覆われ展望ゼロ。それでもなお、気温は一定以上であるせいか、霧の割には結構多くの種類の蝶が散策路脇などに優雅に舞い競っていたが、何とも残念だったのは、昨年「八子ヶ峰」で画像ゲットできなかったウラジャノメが、一度は私の眼前の笹の葉の上に翅を開いて静止してくれたにもかかわらず、惜しくもシャッターを切る寸前に逃亡されてしまったことで… 手軽な山でもあり、次回は必ずリベンジを期したいものだ。






 蝶の観察2012@〜アサマシジミなど
 ここ数年の私の「山」は、あたかも「蝶」の観察を前提としての目的地に過ぎないかのような感があるほどまでに、最近では私は「蝶」にのめり込んでしまった。
 その結果として、今年もまた、当然ながら各所で、いわゆる希少種をも含む、多くの種類の蝶に出逢うことができた。
 下に掲載した画像は、それら私が出逢うことのできた蝶の一部であるが… 中でもウラクロシジミ、フタスジチョウ、ミスジチョウ、アサマシジミ♀、クロシジミ、キマダラモドキは私にとって初の画像ゲット(特にクロシジミは遭遇自体が初)であり、その瞬間の感激たるや、ちょっと表現しがたいほどのものがあった。
 「お金では買えない気持ち」という言葉があるが、初めての蝶に遭遇できたり、初の画像ゲットをできたりした瞬間の気持ちこそ、実にそんな言葉がぴったりであり… またそれは、私には初登頂となる山の頂をきわめた瞬間の気分とも実に似通っているものである。
 結局、未知なるものへの興味あるいは探究心こそが、私にとって山や蝶を求める意欲の原動力の一つとなっていることだけは間違いないのであろう。













 絶壁の縁で肝を冷やしつつ〜破風岳
 7/22、志賀高原の南西、旧小串硫黄鉱山跡のすぐ西にある「破風岳」に、次男と共に2002年(平成14年) 7月28日以来、実に10年ぶりに訪問。
 ここは御飯火山火口壁の一角をなす山で、一見地味な山ながら、私の自宅からは、志賀高原よりも近く、またそこそこ標高もある割に、手軽に訪問でき、しかも登れば火口壁の断崖絶壁の縁の頂上だけに展望豪快、ときており、本来なら私としてはもっと訪問したい山なのだが…
 なぜ、かくも最後の訪問時から再訪までに時間が経過してしまったかといえば、それは私の子供の成長度合が多分に影響している。要するに、一度飛び降りたら最後、まず絶対に助からない断崖絶壁のある山ゆえ、最近の家族登山中心の私の山行の中では、自然、子供の安全を優先し、目的地とするのを敬遠してきたという訳である。(実際、この山と「毛無峠」を隔てた反対側の「毛無山」には、絶対安全ゆえに家族同伴で何度か訪れている。)
 然るに、今や長男は中学生、次男も小学校最高学年と、ようやくある程度安心できるほどに成長してきたので、今回、久々にこの山への訪問を「解禁」したというわけ。
 で… いざ訪れてみると、頂上部の絶壁の迫力は相変わらずで、私も久々に縁から下を覗き込み、肝を冷やす思いを味わったが… ただ、以前と少し変わったのは、この山にも案外訪問者が多くなったのだなということ。この山と隣接する土鍋山の標高(破風岳1999m・土鍋山2000m)ゆえに、「ミレニアム」登山で賑わって以来、結構知名度が上がっているようで、この日もごく短時間の山歩きながら、10人ほどの人に出会って意外に思った次第であった。






 地味だが明るく開放的〜志賀高原・坊主山
 他の山行記録中にも何度か記してきた通り、私は今年は例年以上に蝶の観察に努めてきたため、山には行くものの、頂上まで達しないで下山するケースが多くなっている(以前ほど「山」に関して、その「頂」にこだわらなくなってきている)が、そうはいっても、その蝶の趣味からして、そもそもの発端は「山」から派生したものだし、また私としても、まるで「頂」をきわめないままの山行を延々と続けることには、なおいささか抵抗感を禁じ得ないので、この際、せめてどこか手軽な山にせよ、一つでも多く「頂」への足跡を残したいとの思いから… 今回(8/26)、家族全員で志賀高原の「坊主山」に訪問してみることにした。
 この山、草津白根山地蔵岳と「志賀草津ルート」(山田峠)を隔てた反対側に位置し、その名の通り坊主のような、なだらかな山容を見せている山である。草津白根山最高点の地蔵岳の方が目立つため、どうしても見落とされがちな山ではあるが、地蔵岳が火山性ガスの発生のため立入禁止である現在、その代替峰としての価値は結構大きいように思う。  実際、だだっ広くてハイマツに覆われた頂上部に上がってみれば、そこは茫洋としている分、実に開放的な明るい雰囲気で、周囲には先の地蔵岳をはじめ、横手山、笠岳、御飯岳、四阿山など、この近辺の雄峰をいくつも見渡すことができ、手軽な山にしては相当の充実感を得ることができた。周囲にはキアゲハが優雅に舞い、また足元には可憐なオヤマリンドウの花が、ただでさえ明るい辺りの雰囲気に一層の彩を添えていた。






 蝶の観察2012A〜ゴマシジミなど
 上掲した「蝶の観察2012@」に引き続き、今年第2弾の蝶の画像を掲載・紹介する。
 ここ数年、私も大分蝶に関する知識が身についてきて、通常見ることのできないような希少種の類も、かなり狙って観察できるようになってきた。
 ちなみに昨年は、環境省レッドデータブックの「第 4次レッドリスト」が公表されたが、その中の「チョウ目」「チョウ類」の掲載種中、私が2012年中に観察できた種を挙げれば、次のとおりである。
 「CR」(絶滅危惧IA類) → ゴマシジミ本州中部亜種,ヒメヒカゲ本州中部亜種
 「EN」(絶滅危惧IB類) → アカセセリ,アサマシジミ中部低地帯亜種,クロシジミ,ツマグロキチョウ,ヒメシロチョウ,ミヤマシジミ
 「VU」(絶滅危惧II類) → ギフチョウ,ヒョウモンチョウ本州中部亜種
 「NT」(準絶滅危惧) → オオゴマシジミ,キマダラモドキ,キマダラルリツバメ,ギンイチモンジセセリ,クロツバメシジミ東日本亜種,スジグロチャバネセセリ北海道・本州・九州亜種,ヒメギフチョウ本州亜種,ヒメシジミ本州・九州亜種,ベニヒカゲ本州亜種,ミヤマモンキチョウ浅間山系亜種
 以上の通り、今年初めて見ることができたものも含め、多くの珍しい蝶に遭遇することができたのではあるが… 無論、まだ出逢うことすらできていない種も数多い。果たして来年は、それら「まだ見ぬ」蝶たちに、どれほど出逢うことができるであろうか…













 タヌキに遭遇〜天龍川沿い愛知県道にて
 10/13、この日私は長男と共に、長野県南部に蝶の探索に出掛けた。10月中旬ともなると、狙える蝶の種類も大分限られてはくるが、それでも暖かい南の方なら、あるいは… などと期待しつつ、車を走らせ南下していったが、残念ながらこの日はまるで成果がないまま、いつしか天龍川沿いに越境して愛知県側に入ってしまった。
 その天龍川沿いの愛知県道(1号線)たるや、通過したことのある方なら御存知だろうが… 緑したたる深い峡谷の中、いつ果てるとも知れないくねくね道が延々と続き、県道なのに行き交う車もほとんどなく、途中で運転に疲れ果て、ほとほといやになるようなルート。えらい所に来てしまったと後悔した時には既に遅く、また元来た道を戻る気にもならず… 私はある時点で「これはもう、愛知県側に出るしかない」「多分、今日中には帰れまい」と覚悟を決めざるを得なくなった。「もういやだ!」「もうニ度と通らない!」などと愚痴を言いつつ、それでもそこから「脱出」するには走り続けるしかなく、どうにか「佐久間ダム」近くまで達した時… ふと車の前を走り行く、小さく薄黒い動物の影あり。
 「おい見ろ、タヌキだ!」 言うやいなや、長男に命じてデジタルカメラを出させ、左手でハンドルを握ったまま、右手でデジタルカメラを連続撮影しつつ、しばらく伴走。
 私も長いこと山に登り下りしてきたが、タヌキを撮影できたことは、実はこれまでなかった。たまたま事の成り行きで、えらい道に入り込んだおかげで、首尾よく遭遇・撮影できたようなもの。私はいささか「怪我の功名」めいた複雑な気分と共に、さすがは自然豊かな天龍川流域だと妙に強烈な感心をおぼえつつ、これ幸いと相当枚数の撮影に成功。然る後、タヌキは右手の斜面の上へと消えていった。
 思いがけない遭遇で、私はそれまでの単調な運転による疲れが、この時ばかりは一気に吹き飛んだ(ような気がした)次第であったが… 道はそれからも相当長く、結局、愛知県の豊川あたりで力尽き、私も長男も目の下を黒くして、ビジネスホテルにチェックインするハメになった。






 興味津々〜南方系の蝶2種を越年飼育観察へ
 10/14、前日に天龍川沿いの長大な道のドライブで力尽き、愛知県豊川市内で予定外の宿泊を余儀なくされた私と長男は、一晩休息してどうやら体力を回復し、名古屋方面へと向かった。小牧あたりで高速道路に乗り、長野に戻るつもりであったが、途中、愛知県春日井市内を通過している際、ふと、道脇のクスノキの並木にアオスジアゲハが飛来、産卵している光景が目に入った。すぐに近くに車を停め、件のクスノキに駆けつけてみると、アオスジアゲハはどこかに飛び去ってしまったが、その代わり、ひこばえの葉の上に幼虫をいくつか見出すことができた。こちらではアオスジアゲハも超普通種なのであろうが、私の住む長野市は寒冷で、南方系の同種を見ることはほとんど不可能であるため、物珍しさも手伝って、あえてこれを採集して持ち帰り、飼育してみることにした。幼虫は、一部個体が寄生蝿の寄生を受けていて途中で死亡したものの、他は順調に成育し、11月中旬頃には全て蛹となった。翌春、羽化してどのように美しい姿を見せてくれるか、今から楽しみである。
 その後、私は今度は長男・次男を同伴し、11/24〜25と、神奈川県藤沢市などに訪れる機会があったが、その際には、所用のついでに、この地方で人為的に放蝶されたものが増えて問題になっているという「アカボシゴマダラ」(在来種のゴマダラチョウの近縁種)の越冬幼虫を探索してみることにした。と… 驚いたことに、路傍の植栽帯の中に生じているエノキの若年木の葉上から、次から次と発見でき、今や在来種の方が極端に少数派になってしまっている状況に、大いに驚かされることになった。
 ともあれ、これらの幼虫も持ち帰り、越年飼育してみることにした。無論、こればかりは長野で絶対に外に放すわけにはいかないので、標本化前提の飼育ではあるが… それでも同種は、本来なら南の島とか大陸にしかいない種で、もちろん私の住む長野ではまだ全く見られないもの(というより、特に人為的外来種のアカボシゴマダラは、見られたら問題)ゆえ、私には大いに興味津々だ。翌春、無事に越冬して成虫になったら、果たしてどのような姿を見せてくれるであろうか…?